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Interview

独自特許技術「プロファイリングAI」によって切り拓く未来の顧客体験価値の創造

AIQ株式会社

代表取締役社長

渡辺 求 氏

TIS INTEC Group

TIS

フェロー
山岸 功昇 氏

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TISインテックグループでは、自己資金によるプリンシパル投資としてCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を展開し、スタートアップ企業との協業を通じた成長を目指している。その中でも、AI技術を活用したB2C向けのサービスで注目を集めるのが、TISの投資先であるAIQ(アイキュー)だ。同社は、独自特許技術「プロファイリングAI」を活用し、SNSマーケティングやデジタルクローンの分野で新たな顧客体験価値を創出している。2017年の創業以来、ソーシャルメディアマーケティングの革新をはじめ、AI技術を活かした独創的なソリューションを次々と展開。2024年には大手ハウスメーカーとの協業により、住宅購入者向けの「AIクローンオーナー」サービスを開始するなど、事業領域を広げている。こうしたAIQの成長の経緯と、TISとの協業によって生まれるシナジーについて、TISにおいてCVCを指揮する山岸 功昇氏と、AIQ代表取締役社長 CEOの渡辺求氏に話を聞いた。

「ミュージシャンになりたかった」──AIQ渡辺求氏が歩んできたキャリアと起業への想い

まずは、渡辺さんのこれまでのご経歴についてお聞かせください。

渡辺 氏

私は大学卒業後、大手計算機会社に入社しました。当時はまだ携帯電話が普及しておらず、私は電子楽器の事業に携わっていました。もともと音楽が好きで、ミュージシャンを目指していたこともあり、「音楽を支える仕事をしたい」と思ったのが入社した理由です。4年間ほど事業企画・プロジェクトマネージャーを担当しましたが、楽器というのは当時でも既に成熟したカテゴリーで、技術の進化があまりないことに物足りなさを感じ、より技術のある業界に挑戦したいと考えるようになりました。

 そこで目を向けたのは通信業界でした。その頃はポケベルや携帯電話・PHSが普及し始めた時代だったからです。そこで、大手通信会社との大型プロジェクトに関わるようになり、携帯電話の企画を手がけました。この頃から通信業界の技術進化のスピード感を肌で感じるようになり、これが後のキャリアにも大きく影響を与えました。

通信業界の成長とともに、ご自身のキャリアも大きく広がっていったのですね。
そして、その後は海外で経験を積まれたと伺っています。

渡辺 氏

はい。大手通信会社とのプロジェクトの経験を経て、私はさらに成長したいと考え米国での新規事業立上げの為に、渡米しました。アメリカでは、若い起業家たちが自由に挑戦し、輝いている姿を目の当たりにしました。今振り返ると、その環境に触れることで、いつか自分も起業したいという気持ちが芽生えていったのだと思います。

 そして帰国後は大手エンターテイメント会社に入社し、携帯電話向けのコンテンツ配信・ソリューションライセンスビジネスを担当しました。当時の日本は、モバイルサービスの分野で世界をリードしており、私はここで欧米の通信キャリアと日本の技術やコンテンツをつなぐ仕事に携わりました。その後、グローバルな環境でビジネスを展開したい想い、外資通信会社へ転職。しかし、その半年後に大手IT関連会社による買収があり、環境が大きく変わったため、新たな道を模索することになりました。

グローバルな視点で活躍されながらも、大きな転機を迎えたのですね。そして、その後携帯電話向けソリューション開発会社に転職し、その経験が、起業への道につながっていくのでしょうか。

渡辺 氏

はい。その会社では、常務取締役として携帯電話向けのサービス開発や新規事業の立ち上げを担当しました。携帯電話業界の成長を支えてきたという自負はありましたが、受託ビジネスが中心で、新規事業の立ち上げには時間がかかるため、なかなか経営層から理解が得られませんでした。

 その中で、「本当にやりたいことがあるなら、自分でリスクを取って挑戦すべきだ」と考えるようになりました。社長として経営の最前線に立つことで、これまでとは違う景色が見えるのではないか。そう思い起業したのです。

プロファイリングAI技術の可能性を切り拓いてきたAIQの歩み

具体的にどのような思いや技術のもとAIQを立ち上げられたのでしょうか。

渡辺 氏

AIQは2017年7月に創業しました。当時から私のビジネスの軸は「ゼロからイチを生み出すこと」でした。技術の進化を活用し、まだ世の中にない新しい価値を生み出すことに強いこだわりを持っています。その考えのもとで開発したのが、AI技術を活用し個性化を可視化する「プロファイリングA I」です。

創業当時のAI市場は、今ほど成熟していなかったと思いますが、どういった可能性を見出していたのかお聞かせください。

渡辺 氏

AIQが設立された2017年当時は、まだAI技術が現在ほど広く活用できるレベルではない時代でした。そうした中で、AIを活用して人の個性である行動や思考の起源を分析する技術の可能性を見出し、特許を出願しました。

具体的に、どのようにして技術の方向性を決めていったのでしょうか。

渡辺 氏

当時、SNSを活用したマーケティングが注目され始めていましたが、主流はTwitter(現:X)でした。短文の投稿が中心であり、情報拡散のスピードが速いことが強みでした。しかし、私たちはあえてInstagramに注目しました。なぜなら、Instagramでは投稿に必ず画像や動画が含まれており、投稿者のライフスタイルや嗜好がより明確に表れるからです。視覚的な情報を通じて、その人がどんな価値観を持ち、どのような興味を持っているのかを推測することが可能だと考えました。まさに個性の可視化です。

 プロファイリングAIを開発するにあたり、大量のデータが必要になりますが、自分たちだけでデータを蓄積するのは非常に困難です。そこで、Instagramにすでに存在する公開情報を活用することで、独自の技術を磨き、最適なプロファイリングを実現しようと考えました。こうして、AIQのコア技術が誕生しました。

そして、その技術を活かした事業のひとつがインフルエンサーマーケティングだったのですね。

渡辺 氏

そのとおりです。すでに2019年に特許取得をしていたプロファイリングAI技術を活用したインフルエンサーマーケティングサービスを2021年9月に開始しました。従来のインフルエンサーマーケティングよりも、売上に直結する企業とインフルエンサーのマッチングを可能にしました。従来の手法では、フォロワー数などの表面的な指標に基づいてインフルエンサーを選定することが一般的でした。しかしAIQのプロファイリングAI技術を活用することで、より本質的な影響力を持つインフルエンサーを特定し、企業のマーケティング効果を高めることができました。

 AIQは、単なる技術開発企業ではなく、「ビジネスとテクノロジーを等しくバランスして価値を創造する」ことを理念として、これまで成長を続けてきたのです。

「技術だけ」ではない!AIQが生み出す「半歩先」の価値とは

AIQの技術には多くの注目が集まっていますが、どのような点に競争優位性があるとお考えでしょうか。

渡辺 氏

確かに技術開発は重要ですが、単純な技術力の競争ではビックテック企業には勝てません。AIの基礎技術は日々進化しており、大規模な企業が莫大な資本を投じて開発を進めていますから。そこで当社は「技術をどう使うか」という点に焦点を当て、ユースケースを生み出し、サービスとして提供することに力を入れています。技術そのものを売るのではなく、技術の価値を最大化できる形でパッケージ化し、ビジネスに活用することが私たちの最大の強みです。

単なる技術ではなく、実際に活用できる形で提供することがポイントということですね。

渡辺 氏

はい。私たちは「技術適応力」に長けていると自負しています。自社で開発した技術だけでなく、最先端の技術を柔軟に取り入れ「半歩先」のユースケースとして社会実装することを意識しています。その姿勢が、AIQの成長を支えてきたと考えています。

具体的な事例として、独自特許技術「プロファイリングAI」を活用したマーケティングについて教えてください。

渡辺 氏

例えば、ある女性用アンダーウェアのブランドがインフルエンサーを起用してSNSでプロモーションを行ったとします。従来のマーケティングでは、フォロワー数や投稿に対して「いいね!」数が多いインフルエンサーを選定するのが一般的でした。しかし、いざ投稿を分析してみると、投稿に「いいね!」しているのはターゲットと異なる層、つまり意図しない中年男性のユーザーばかりだったのです。

 ここで重要なのが、フォロワーや「いいね!」の数だけでなく、実際に影響を受ける層を可視化することが必要だったということです。私たちの独自特許技術「プロファイリングAI」は、フォロワー数や表面的なエンゲージメントではなく、「実際にどのような層にリーチしているのか?」を可視化します。その結果、フォロワー数重視でビジネスを展開していた業界関係者から「マーケティング業界の“パンドラの箱”を開けてしまいましたね」と言われるほど、業界の常識となっていた料金体系やインフルエンサーマーケティングの手法そのものに影響を与えることになりました。

2024年5月には「アパレルのインフルエンサースタッフのデジタルクローン」を発表されましたね。

渡辺 氏

はい。労働人口が減少し、優秀な販売スタッフの確保が難しくなる中で、企業がお客さまの適切なニーズに応えることが難しくなっています。そこで、AIQでは「デジタルクローン」を活用することで、販売活動のあり方を変革しようとしています。

 デジタルクローンというのは、インフルエンサーや企業の販売スタッフのデジタル分身のような存在です。当社の独自特許「プロファイリングAI」を核としたAI技術を駆使し、実際の人物と同様の会話をオンライン上で実現します。例えば、アパレルのインフルエンサースタッフのデジタルクローンがオンライン上で商品を紹介し、購入を促すことで、よりターゲットに合ったマーケティングが可能になります。さらに、デジタルクローンが活動することで、その元となるインフルエンサースタッフご本人の販売力も強化されるのです。

いま流行りの「AIエージェント」とはどのように違うのでしょうか。

渡辺 氏

AIエージェントは、特定の機能を代替し、効率化を目的とすることが多いですが、デジタルクローンは「誰かのために」存在します。例えば、販売スタッフのデジタルクローンを作ることで、24時間365日、顧客と対話し、信頼と共感の関係を築くことができます。言語や地域の壁を超えて、より多くのユーザーにリーチできることが大きな特徴です。

積水ハウスと協業した「AIクローンオーナー(正式名称:SUMAI style chat)」サービスを開始

そうしたデジタルクローンを活用した具体的なサービスについて教えてください。

渡辺 氏

2024年11月には、積水ハウスのサービスとして「AIクローンオーナー」を開始しました。このサービスでは、実際の住宅オーナーのInstagram投稿を基にデジタルクローンを作成し、住宅購入検討者との対話を実現します。

住宅購入の場面で、デジタルクローンがどのように役立つのでしょうか。

渡辺 氏

家を買う際、ほとんどの人はハウスメーカーの公式サイトや展示場を訪れる前に、SNSで情報収集を行います。特にInstagramには、「実際に購入した住宅の写真」や「住んでみての感想」など、リアルな情報が集まっています。

 しかし、これまでは個人のSNSでの情報が企業のマーケティング資産として活用されることはほとんどありませんでした。そこで、私たちは「住宅オーナーのデジタルクローン」を作成し、住宅購入検討者と対話できる仕組みを開発したのです。

つまり、住宅購入検討者がオーナーと会話できるようになるということですね。

渡辺 氏

そうです。従来、住宅を購入する際に展示場を訪れるようなケースでは、展示場に行く前の段階で購入の意思が固まっていることが多いのです。そのため、購入の意思決定プロセスにおいて、「すでに家を建てたオーナー」との会話が非常に重要になります。

 先輩となる住宅オーナーの「AIクローンオーナー」を活用することで、住宅購入検討者は実際の住宅オーナー(のデジタルクローン)と24時間365日対話でき、購入前の疑問や不安を解消することができます。さらに、このやり取りのデータはマーケティング資産として蓄積され、より精度の高い商品企画や営業活動に活かされることが期待されます。

住宅購入という長期的な意思決定プロセスにおいて、リアルなユーザーの声が重要であることがよく分かりました。

渡辺 氏

そうなんです。一般的な発想であれば、デジタルクローンをつくるならば営業マンをデジタルクローンにしようとするはずです。しかし、住宅購入者のカスタマージャーニーをしっかりと分析すれば、住宅オーナーこそが最も影響力のある「営業マン」であることがわかるのです。このようにAIQの強みは、「生活者の行動を可視化する技術」を持っていることです。その技術を活用し、企業のマーケティング資産を強化する取り組みを続けています。今回の積水ハウスとの協業も、その一例です。

TISのCVCが見出したAIQの可能性──協業への道のりと今後の展望

TISがAIQに出資することを決めた背景について教えてください。

山岸 氏

AIQさんとの関係は、実は出資の2年ほど前から始まっていました。TISのCVCとして、成長ポテンシャルのあるスタートアップとの協業を模索していた中で、AIQの持つ特許や実装実績が私たちの関心を引きました。当時から、AIQの考え方やアプローチには他社にはない独自性がありましたから。そのため、資金調達のタイミングに合わせて協業の可能性を探り、2022年3月に正式に出資することとなったのです。

出資を受けたAIQ側の視点からは、TISとの関係をどのように捉えていますか?

渡辺 氏

私たちのようなスタートアップにとって、大手企業との協業はとても重要な意味を持ちます。特にTISさんのような大企業が、長期的に我々を信頼し続けてくれたことは、とてもありがたいことでした。山岸さんをはじめTISさんのCVCチームの皆さんは、数年にわたって当社の成長を見守り続けてくれました。私たちが進化を続ける限り、その期待は変わることなく、むしろ強くなっていると感じています。

具体的に、TISはAIQのどのような点を評価していたのでしょうか。

山岸 氏

AIQさんの強みは、単に「ソーシャルメディアを活用したマーケティングが強い企業」ではないということです。確かにインフルエンサーマーケティングの領域では先進的な取り組みを行っていますが、それ以上に、B2C領域でAIを活用し、特許技術をもとに実装できる能力を持っている点を高く評価しています。単なる技術開発だけでなく、それを社会実装し、ビジネスとして成長させる力がある。私共はそこに魅力を感じております。

 さらに、スタートアップは成長する過程で事業内容が変化することが多いのですが、AIQの場合は、創業当初からのビジョンをぶらさず、適切なタイミングで新しい技術やサービスを市場に投入してきました。このようなスタートアップは希少であり、だからこそ私たちは継続的に支援を続けたいと考えています。

ちょうど最近AIQが発表した「HUMANISE AI」も、非常に先進的ですよね。

渡辺 氏

はい。AIQの独自の特許技術の総称である「HUMANISE AI」は、プロファイリングAIの技術をさらに発展させたものです。従来のプロファイリングAIは、SNSの投稿内容やデータを分析し、その人の個性を抽出する技術でした。しかし、HUMANISE AIでは、そこからさらに進化し、「個性を再現する」ことを実現した技術です。

具体的には、どのような仕組みになっているのでしょうか?

渡辺 氏

例えば、ある人物の文章の書き方や使う言葉の選び方、テキストでの表現のクセ、絵文字などの使い方など、細かい要素を解析してデジタルクローンを生成します。つまり、「この人なら、こういう風に表現するだろう」という特徴を再現するのです。

 私たちは、人間は完璧な存在ではないと考えています。知識が古かったり、時には間違ったことを言ってしまうこともあります。しかし、それも含めて「個性」なのです。独自特許技術「HUMANISE AI」では、こうした個性を忠実に再現し、まるで本人が話しているかのようなデジタルクローンを生み出します。これは、AIをより「人間らしく」活用するための新たなステップだと考えています。

まさに、人の「個性」をデジタル化する技術ですね。
その活用の幅はどのように広がっていくとTISとしては期待しているのでしょうか。

山岸 氏

AIQさんの技術は、単にマーケティング分野にとどまらず、今後さらに幅広い分野へ応用できると考えています。CVCとしての視点から見ても、AIQさんには非常に大きなポテンシャルがあると確信しており、だからこそ、当社としても協業の機会を積極的に模索し、AIQさんとともに新しいビジネスや市場を開拓していきたいと考えています。

TISとの協業がもたらすシナジーで新たな価値を創出していきたい

TISとの協業を進める中で、特に印象に残っている点はありますか?

渡辺 氏

これまでTISさんと関わらせていただく中で一貫して強く感じているのが、その「熱量」と「支援の深さ」です。TISさんは単なる投資家ではなく、事業パートナーとして深く関わり、顧客紹介まで積極的に行ってくれます。これは非常に貴重な関係だと感じています。

 また、TISさんは意思決定のスピードが驚くほど速い点も特徴です。何か新しい協業の可能性が浮上した際に、すぐに動き、実行に移す力があります。実際、地方自治体との打ち合わせでも、TISさんの担当者が同席してくれて、まるで強力なチームとして動いているような感覚でした。

今後、TISとの協業をどのように発展させていきたいと考えていますか?

渡辺 氏

AIQは、ここ1〜2年で客層や事業のスケールが大きく変化し、より多くの大手企業のお客様と取引が増えました。これはTISさんの支援があったからこそだと思います。今後も成長を続け、より広範な業界でTISさんと連携し、新しい価値を生み出していきたいですね。

AIQとのさらなる協業に向けて──TIS-CVCが投資先に寄せる期待

TIS-CVCとして、AIQを含めた投資先に対してどのような期待をお持ちでしょうか?

山岸 氏

AIQさんは、その成長とともに当社のクライアントやその候補となる企業と事業領域が重なりつつあり、今後も協業の機会をさらに広げていきたいと考えています。我々は投資先とは単なる資金提供の関係ではなく、互いに成長を促し合う「ビジネスパートナー」として捉えていますので、共に新たな価値を創出できる関係を築いていきたいですね。

 TISインテックグループは「ITによる社会課題の解決」を掲げています。その理念に共鳴するスタートアップとともに歩み、より良い社会を実現するための挑戦を続けていきたいと思います。

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