TISインテックグループでは、ファンドを活用しての投資ではなく、自己資金によるプリンシパル投資としてCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を展開している。TIS-CVCでは、同グループが携わる業界やIT領域で、スタートアップ企業と協業して成長を目指していく。今回取り上げる投資先は、エネルギー分野でAI技術を先駆けて活用するインフォメティスだ。同社では、AIを用いた電力データの分析によって、エネルギー効率の最適化と人々の生活品質(QOL)向上を目指している。ソニーから独立し、独自の機器分離推定技術を武器に社会基盤の革新を進めるインフォメティスの挑戦と、TISとの協業によって生まれるシナジー効果について、TISにおいてCVCを指揮する山岸功昇氏と、インフォメティスの代表取締役、只野 太郎氏に話を聞いた。
確かに、今は猫も杓子もAIという感じですけれど、当社ならではの特徴と言えるのが、電力という特殊であり、また物理的な世界においてAIを活用していることでしょう。物理的──つまり“モノ”と言えば「IoT」がAI同様にブームですが、電力の世界でIoTやAIを活用するためには、電力ならではの特性について十分な知見やノウハウが求められてきます。なんでもかんでも単にデータを集めてくればディープ・ラーニングで学習できますよ、とはいきませんから。
当社では、高精細エネルギーデータである電流波形の時系列データを扱っており、そこから多面的な情報を引き出す独自の開発を行っています。その基本となるのが、世界最先端の機械学習アルゴリズムを用いた当社独自の機器分離推定技術です。これにより、個々の家電・電気設備機器にセンサーを設置しなくても、家庭や企業など1つの施設全体の電力データからそれぞれの使用状況の分析や機種識別、電力需要予測、活動予測などを可能としています。このように、電力系統と需要家の双方にとってエネルギー利用を最適化するような技術開発・研究開発に取り組んでいます。
また、電力データから引き出した情報は、データマイニングすることにより、エネルギーの効率利用のみならず、ヘルスケア、医療、物流、マーケティングや保険などにも応用できます。こうして、ネットワークやAI・機械学習など、最先端技術を“多段活用”することで、エネルギー効率利用や人々のQOL向上など、幅広い領域で皆さんのお役に立てることを目指しています。
はい、大きく異なりますね。ChatGPTをはじめとした生成AIというのは、世の中に正解が無数に存在していてそれらを学ばせることからスタートしており、また何度でも繰り返し学習することが可能です。一方で、我々が行っているような全体電力データから、個別の家電・電気設備機器が消費している電力の状況を明確にするといった用途では、正解を誰も持っていません。そうした特性を強く意図しながらデータを集め続けて10年以上になりましたが、この宝物があるからこそ、独自のアルゴリズムやノウハウを構築することができたのです。しかも、“データを集める”と言っても、電力データの場合はインターネット経由で簡単に集められるようなものではなく、それだけでも当初は試行錯誤の連続でした。
私は1991年に新卒でソニーにエンジニアとして入社して以来、映像系のエンジニアリングなどを手掛けていました。しかし入社15年目ぐらいから、新しく何かを創造したいという思いが強くなり、事業開発や経営企画などを経験した後、エネルギー分野におけるソニーの新規事業創造を牽引することとなったのです。当初、それまでのソニーのビジネスとはまったく関係のないエネルギー分野のビジネスが新たに立ち上がると聞いて、社内の発案者に話を聞きに行ったところ、お互いの思いが共通して、すぐに意気投合しましたね。
そうして2010年頃より、ソニーが研究していたAI技術から派生した機器分離推定技術をはじめとした武器をいかにして用いてビジネスとして成り立たせるのか、30以上のシナリオを考えて、そこから5つほどに絞ったうえで組み立てたトータルビジネスプランを突き詰めていきました。
ただちょうどその頃、“第二次ソニーショック”とも言われる業績悪化により、ソニーの経営方針が選択と集中で原点回帰する流れになったため、もともと畑違いだったエネルギー分野は切り捨てることとなり一線を引かねばなりませんでした。しかし実証実験で高い評価を受けていた技術でもあり、エネルギー業界からも“このまま消えるのは勿体ないので、なんとか活かす道はないか”といった声をいただいていて、もちろん私も同じ気持ちでした。そうしたなか、投資したいという企業が複数現れてくれたのです。そして、投資家の協力を得ながら、2013年に独立することとなったのです。
そうして2018年には、東京電力パワーグリッドと合弁で、当社の次世代スマートメーターを社会基盤として広めていくための企業としてエナジーゲートウェイを設立するといった取り組みもするようになりました。
先ずは、TISの経営戦略における主要テーマである脱炭素社会の実現に向けた有望なスタートアップ企業であることが大きかったです。この企業であれば、日本におけるエネルギーの効率化に貢献でき、TISインテックグループと共に社会に貢献できる可能性は高いと考えました。その為、定期的に情報交換しながら、インフォメティスさんが資金調達をする際には、1カ月程度で出資を決定することが出来、事業会社としてはスピーディーかつスムーズに話を進めることができたと思っております。
その他、会社の方向性が当社と一致していた事等も含めて、魅力に感じた点は数多くあります。例えば、機器分離推定技術のような長きにわたって確立された独創的な技術もそうですし、他の大手企業とも上手く付き合われていて、インフォメティスさん自体がTISインテックグループとの相性が良いだろうと思ったというのもあります。加えて、会社の理念・方向性がブレずに、しっかりされており、分かり易く社内に説明できたことも速やかな出資判断へと結びついたと思います。
出資の判断のみならず、様々な状況での判断が非常に早く、とてもスピード感のある企業であるという印象がとにかく強いですね。それと合わせて発信力も強く、なかなか当社だけでは対外的な発信が十分でない中、とても頼もしい存在となっています。それと、社内調整も上手くやって頂いたのも印象に残っています。TISさんとは、ビジネスを通じて目指すところが同じであるため、提携がもたらす事業的なシナジー効果がとても高いと思えたのもそのお陰です。
スピード感をもってスタートアップ企業に対応していくことを強く意識しておりますので、その点を評価頂けたのは、ありがたい言葉でとても嬉しいです。また、スタートアップ企業とTISインテックグループを橋渡し出来ているようなお話も大変嬉しく思います。
現在、当社の技術を用いた西日本のある電力会社のプロジェクトをTISさんと共に、4月に実証事業を実施する予定です。TISさんには電力業界向けのシステムもあるので、更にそうしたシナジーも見据えています。また、TISインテックグループとしてインテックさんも交えて今後は協業していけるのも期待しております。
出資後すぐに様々な動きがあり、その中で、先ずは一つでも成果を出して、そこから大きな協業に繋いでいけるようにTIS-CVCとしても社内で推進してきたいと思っています。
我々としても、ソニーグループを離れて、スタートアップ企業として社会基盤を支えるサービス提供という大きなビジネスを目指しているものの、まだまだ規模は小さいのが現状です。そこで、強力なシステム構築力をはじめ、大企業ならではの強固な基盤を持っているTISさんとのパートナーシップにはとても心強く感じています。また、TISさんには我々のずっと先を行っているシステムもあります。そこを尖った我々の技術と組み合わせることで、ソリューションとして提供することができれば、目標である社会基盤の構築へと大きく近づけると信じています。
良い関係のもと、上手にコラボレーションしながら、具体的なビジネスとして早く、大きな協業が出来ることを目指してし、お互いの成長へとつなげていければと考えております。そうしてTISインテックグループのCMでもお伝えしているように“ITで、社会の願い 叶えよう”を実現できるように、末永く協力し合えることを望んでおります。
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